時を刻む音と雨を刻む音

私だって全部分かっているんです。
私が今何をしても不幸であり続ける理由、twitterに呟き続ける理由、そしてこんな気持ち悪い性的嗜好を抱くようになった理由。全部、全部同じ事なんです。きっと、きっとそうなんです。フロイトは言いました、神経症患者の症状にはある共通した特徴があり、その神経症を引き起こす原因となっている直視し難い過去の記憶や現実から、つまりは無意識から目を逸らさなければ、それを誠実に認めれば、症状はたちどころに治まるのです、と。
治まりません、先生。

私には母親の愛情が足りなかったんです。

私には噛み癖があります。それも相当に酷い奴です。具体的に分かりやすく言うと、身近なもので言えば、ストローくらいは食べられます。プラスチック製のスプーンは粉々にして飲み込みます。ビニール袋は何十分も咀嚼した後で噛みちぎって少しずつ飲み込みます。ティッシュペーパーを噛んでいると気持ちが落ち着くので好きです。布はいくら噛んでも千切れないので安心します。ペットボトルの蓋が好物で、縦向きにガジガジ噛んで削ってから横に潰して逆方向から潰して粉砕して飲み込みます。皆さんは知らないかもしれませんが、イヤホンは食べることができます。銅線と基盤の部分以外は全て食べることができるんです。
全部味なんてありません。口の中に何かがあって、その歯応えと舌触りが良ければ、それは私にとって、満足たりうるのです。
私には母親の愛情が足りなかったんです。これは多分、本来口に含むはずだった乳房の代わりなんです。

私はtwitterを愛します。私が何かする度に、私が何か行動を起こす度に、ふぁぼったり空中リプライをしてくれたりする人がいます。私のことを愛してくれる人が居ます。私がどんなツイートをしても、かわいさを前面に押し出した媚びたツイートをしても、偉そうなことを書いたツイートをしても、どうでもいいようなことを書いたツイートをしても、どうあれふぁぼってくれる人が居ます。私を愛してくれる人が、いるんです。
言うまでもなく、幼少期に獲得できなかった母親の愛情の代理です。

私は自分の身体が改造されることを望みます。それは、普通の人が「人体改造」と聞いて思い浮かべるような、残忍な情景ではありません。私はただ、自分の右腕を、骨や肉を無くして輪郭と感覚だけにしてしまって、ぐにゃぐにゃ曲げてみたり、ふにゃふにゃにしたり、振り回したりして、遊んでみたいのです。そして、私は、そういう事に、性的な興奮を覚えるのです。
明らかに、幼い頃得られなかった抱擁の代わりです。身体をぐにゃぐにゃされるのは、抱擁に、極めて近い感覚なんです。だって、子供は自分の身体の輪郭を意識していないから。

私には母親の愛情が足りなかったんです。

私はもう、何もかもを認めました、だから、だから、一刻も早く、こんな気狂い染みた世界観から、早く脱出させてください、もう私は、何もしたくない、何もしたくないんです、これ以上苦しみたくないのです、だから先生どうか、私はもう認めました、誠実に認めたんです、恐らくは貴方の診察した何百何千の患者の上位何%かには入る程度の誠実さで私は無意識の病巣を発見したのです、だから先生、お願いですから、私を治してください、ええ、分かっているんです、こんなことは、全く誠実でもないし、意味の有ることでもないのです、なぜなら、私は、分かっているのです、無意識が私にそう命令するのです、今から母親のところに行って、一回抱きしめてもらってこいと、それだけのことで恐らく何もかもが完治するのです、あるいはそれを毎日続けることで、確実に快方に向かうはずなのです、それだけのことなのです。私にはそれがわかっていて、尚それをしないのですから、私はとてもとても不誠実で、従って、罰を受けることになるのだ、酷く惨めな一生を、救われることのない一生を、ありとあらゆる情景に母親の像を重ねることしか出来ない哀れな一生を、私は過ごすことになるのだ、惨劇を回避するためのタイムリミットは近く、具体的には母が私を子どもとして抱きしめられるまでの間、母が私を忘れないまでの間、それは近くない未来だけどきっと遠くもない未来で、多分あと10年か20年しかなくて、その間に私が決断しなければ、私が時の魔の手に追いつかれたのなら、私はきっと、死にたくなるような、みじめな一生を過ごすことに、きっとなるのです。

雨と時を刻む世界で

私は記憶を改竄する事にしました。
あれは私が三歳の時の事でした。私は暗い部屋に居ました。暗い部屋は嫌だったので、明るい部屋にいる事にしました。私はその部屋で、閉じ込められていました。私はどうして閉じ込められていたのか、分かりませんでした。だから、その時は、きっと、お皿か何かを割ってしまったのだと、そういうことにします。私は、理由もわからないまま、罰として真っ暗な部屋にいて、周りはとても明るくお皿を割ってしまってとても申し訳なく思っています。鍵は開きませんでした。鍵は開きませんでした。何度ドアノブを回しても、それは銀製で、真っ暗な部屋の中でもハッキリと分かるようにそれは銀製で、手で掴むとヒンヤリしていて、何度回しても何度回してもドアノブが開くことはありませんでした。私は何度も何度も謝りました。謝りました。謝りました。許してもらえませんでした。ドアノブは開きませんでした。ドアノブは開きませんでした。段々銀のドアノブから冷気が失われ、ドアを乱暴に叩く私の手は、傷だらけになり、部屋が明るかったので、私は部屋の中を探索することにしました。なんだかワクワクしてきて、電気をつけようとしたのですが、身長が足りなくて、部屋はまだ暗いままでした。私は真っ暗な部屋にいたので、私はドアを開けようとしました。ドアは開きませんでした。ドアは開きませんでした。銀製のドアノブは回りませんでした。それは何かから固定されていました。私はドアを開けようとして、部屋を隅々までじっと見ると、とても楽しそうなおもちゃがあったので、ひとしきり遊ぶことにしました。それは私の大好きなレゴブロックで、今まで一度も遊んだことのないものでした。色鮮やかな青いブロックや赤いブロックを組み合わせていると、自然とドアは開いていました。私はドアの外に出て、母親の胸に抱かれました。母親は私を抱きしめて、私の頭を撫でてくれて、私はうとうとしながら、周りがあまりに暗かったので、ドアノブを回そうとしたのですが、母親の手がドアノブを逆側から抱きしめていて、私がいくらドアノブを回しても、母親は父親と一緒に机に語りかけていたので聞こえませんでした。部屋が明るかったので部屋の隅を見るとレゴブロックが置いてありました。私はそのブロックを機械的に手にとって、光の刺した開いたドアへと作業のように向かい、母親の腕に抱かれ、それでもドアノブが開かないんです、声が届かないんです、部屋が暗いんです、時計の音が聞こえるんです、私の頭から、あの記憶が離れてくれないんです、あれは三歳の頃でした、未だに覚えていないんです、あの日何故私が閉じ込められていたのか、あるいは私が三歳だったのかどうか、そもそも私が本当に閉じ込められていたのかどうかすら・・・。私は私の頭の中で、私は薄暗い部屋で、母親に意味も分からず閉じ込められ、父親と母親がリビングで険悪な雰囲気で話すのを聞いて、ドアノブを回そうとして、いつまでたっても開かなくて、ドアを叩いて、手が傷だらけになって、右足には大きな傷跡が残り、あれから十五年経った今でもあの時負った傷は、眼に見えない形で私の心を蝕み、殺してやる、殺してやる、殺してやる。

その後

私は思い出したようにtwitterで彼の名前を検索にかけた。悲しみはもう消え失せていた。
私は、信じられない検索結果を得た。
「○○のツイート数がまた変わっている」

彼は失踪の直前に、「もう少しで60000ツイートになる」と言っていた。そして彼のアカウントは丁度60000ツイートを以て止まっていた。それは明らかに意図された数字だった。だから私はその数を覚えていた。
彼のアカウントを開き直してみる。
ツイート数、59990ツイート。
ツイートが、消えている。
ツイッターの仕様は分からないが、ツイートが突然消えることなんて有り得ないはずだ。10個のツイートが消されたのは、間違いなく何らかの人間の手によってだ。

それが彼本人なのか、彼の遺族なのか、彼の友人か何かなのか、私には分からない。ただ一つ確実なのは、彼が失踪し、少なくとも8月27日(前回の記事を書いた日付)を過ぎた後に、彼のアカウントにアクセスした人間が居る。そして、その人間は、何らかの都合で、10個のツイートを消した。

ひょっとしたら、彼が生きているかもしれない!

消えたツイートは、少なくとも、彼の失踪の直前のツイートではなかった。私は何度も何度も彼の最後の言葉を読み返していたけれど、今見てもどこも変わっていないように見える。そうなると、消されたのはツイッターのホーム画面で簡単には確認できないくらい昔のツイートというのことになる。

……そんなツイートを、一体どうやって消したんだ?そして、どうして不都合なツイートが存在することに、アカウントにアクセスした人間は気づけたんだ?ホーム画面を何ページもスクロールさせても全く表示されないのに?それともtwilogで?

あまりに不可解だった。その謎を解くために、そして、彼が生きているかもしれないという希望を胸に抱いて、私は彼のアカウントを眺め回していた。そして、あるツイートをクリックして、それ以上に不可解なツイートが存在しているのを見つけた。

ある人物からふぁぼられているのに、お気に入りの数が、ゼロ。
色んなツイートをクリックしていると、そういうツイートがいくつかある事に気付いた。その「ある人物」は、ふぁぼった人間としてそのツイートに登録されているのに、ふぁぼられの頭数に集計されていなかった。
その人物のアイコンを、私はクリックした。

Twitter / ?
そのページは存在しません。
お気づきありがとうございます。—これから解決に向けて取り組みますので、しばらくお待ちください。

私は、その人物のふぁぼりがどうして集計されていなかったのか分かった。

そして、同時に、理解したくもなかった、最悪な事実にまで、気付いてしまった……。

彼のアカウントには、何者もログインしてなどいなかったのだ……。

彼のツイートは、消されてなんか、いなかった。

彼は、やはり、死んだのだ。

希望は打ち砕かれ、私は愕然とするしかなかった。
プロフィール

Author:ルーミア厨
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